外の世界に開かれた地球社会研究専攻

ウチラルト

(オーストラリア国立大学アジア太平洋学院 中華全球研究センター リサーチ・オフィサー/文化歴史言語研究センター 博士研究員)

私は博士号を取得後、日本の大学で数年教鞭に立った後、現在は、オーストラリア国立大学アジア太平洋学院において働きながら学んいます。今は二つのプロジェクトに関わっています。ひとつは中華全球研究センターという新しく設立された中華圏(中国、台湾など)を対象とする研究所においてリサーチ・オフィサーとして、オーストラリアと日本の中国研究のネットワークの構築を担当しています。アジア太平洋地域において中国がその存在感を増していくなかで、トランスナショナルな中国研究者のネットワークを構築し、政治、経済、歴史、文化など学際的な視点から、中国及びその近隣の世界にアプローチしていこうというのが狙いです。そして、もうひとつはオーストラリア研究議会助成のプロジェクトで、東アジアの草の根のサバイバル・ポリティックスを検証するものであり、日本、韓国、台湾、中国、モンゴル、北朝鮮を対象とする共同研究プロジェクトのなかで、私は博士研究員としてモンゴル地域(内モンゴル自治区、モンゴル国、ブリヤート共和国)の研究を担当しています。

私は、地球社会研究専攻に在籍していた期間、教室のなかだけではなく、大学の外においても多様な体験と出会いに恵まれました。修士課程の時に、恩師の勧めでロンドン及び北京で英語の勉強及び修士論文の資料の収集をして過ごしました。その後、英語での論文出版、英語での学会発表も行い、それらも現在の仕事に結びついた一つのきっかけです。また、博士課程の時はフィールド・ワークのために中国の河南省を中心に、河北省及び北京に二年間近く滞在する機会をえました。ゼミ活動の一環として日本におけるローカルな有機農業の活動にも深く関わりあい、意識と制度がコミュニティ形成を通じてどのように相互に関係するのかを知ることができました。フィールド・ワークも含めた研究遂行には、岩国育英財団及びサントリー文化財団の助成を受けましたが、財団の方々や自分の大学以外の同世代の若者と出会い、親交を深めることも大きな収穫でした。このように地球社会研究専攻にはプロブラムだけでなく、学生も教員も一つコミュニティとして常に外の世界に開かれた環境を提供しているので、そのなかでひとりひとりが自分の研究課題を追求し、それをつうじてユニークな世界を見つけ、関わっていくことができる専攻だと思います。

私が地球社会研究専攻を受験した時、あまり将来のことは考えていませんでした。おそらく「将来」というものはどこかにあるものではなく、ひとりひとりが切り開いていくものだと思います。その意味で、皆様が地球社会研究専攻においてそれぞれユニークな将来を作り上げていくことを期待しています。

幅広く柔軟な専攻だからこそ必要な、切実なる問題関心

五十嵐理奈

(福岡アジア美術館 学芸員)

私は今、福岡アジア美術館の学芸員として、アジア美術の現地調査・研究にもとづき、展覧会を企画・実施し、それをいかに文脈化するかに取組んでいます。福岡アジア美術館は、世界に先駆けてアジアの近現代美術に着目し、調査・研究、作品の収集・展示、作家の招聘を行ってきた美術館で、その理念は既存の「美術」概念をアジア美術をとおして問い直し、新たなアジア美術の価値を創造しようとすることにあります。西欧で形成された「美術」という制度のなかにありながら、アジアの美術と向き合う仕事は、まさに地球社会研究専攻で学んだ、西欧中心の思考を脱し、現地の文脈に即して問題を考え、それを展覧会という形で具体化する実践の場です。

社会学を学んでいた学部時代、バングラデシュ人労働者のコミュニティで調査をしていた私は、労働者たちが日本社会でネガティブな眼差しを向けられることに対して、本来の自分たちの姿を伝えたいと発した声に触発され、彼らと一緒に文化イベントを立ち上げました。この時、人の懐に入り込むフィールドワークの面白さを知り、人が何かを「表現すること」への関心が深まりました。そこで、文化人類学をはじめ、幅広い分野で柔軟な思考を展開する先生方がいらっしゃる地球社会研究専攻の門をたたいたのです。一見、研究対象になるのか、と思われるような事象であっても、それを受け止める柔軟な姿勢の専攻に対して、ワクワクする気持ちで入学しました。入学後は、バングラデシュにフィールドを移し、刺繍布の商品化過程を事例に、個人や集団、国などの主体が作りだす表現のあり様を研究しました。

地球社会研究専攻の院生たちは、それぞれ明確な問題関心を抱えていましたので、ある研究室の門下生になるのではなく、研究に即していくつものゼミに出席し自分の糧にしていくという、大学院の講義群を自分で編集するような自由で独立した姿勢を持っていました。そのため、ゼミでは異なる調査地域、研究分野の同じ知識を前提としない他者と、いかに共有可能な議論をするかを鍛えられました。また、その研究が学問であるかを常に問われる訓練の場であったと思います。そして、それと同時に、学問界に閉じない、研究成果を社会に還元する生きた学問を後押ししてくれる専攻でもありました。ですから、私も言語による表現の論文だけではなく、より広い一般の人々に届くような、展覧会という表現方法を身につけたいと思い、現在の仕事に就きました。地球社会研究専攻で学んだことが筋力となり、私の今が支えられていると思います。

地球社会研究専攻で学んだこと

山本 訓子

(独立行政法人国際交流基金 ニューヨーク日本文化センター 日本研究/草の根交流・教育プログラム プログラム・ディレクター)

小さな頃から外国語や、海外・日本を含む文化に興味をもっていましたが、高校生のとき旧ユーゴ紛争のニュースを見て、文化の差異が要因となって紛争が起きることに衝撃を受けました。以来、異なる文化的背景をもつ人びとが共存するにはどうすればよいのかに関心を持つようになりました。大学では国際政治学を学びましたが、もう少し実際に生きている人びとの視点から多文化共存の問題を考えてみたいと思い、大学院進学を選びました。地球社会研究専攻を選んだのは、自分の関心に近い分野の先生方がいらっしゃったことに加え、いずれは実務の世界で働きたいと考えていましたので、理論だけでなく実践を重視する本専攻に魅力を感じたからです。

私は、オランダの移民社会を事例に、移民の社会統合政策及びその実態について研究しました。指導教官や演習を通じて学んだことは、何よりも学問的な思考の方法だったと思います。問題の所在はどこか、方法論は妥当なのかといった問いと常に向き合っていました。また、特定の理論やディシプリンにこだわらずに問題を考えようとしていたので悩みは多かったのですが、そこから、物事を多角的に眺めようとする姿勢ができたように思います。一方で、オランダでのフィールドワークの経験は、実際に行動することやコミュニケーションすること、つまり実践することの重要性にあらためて気づかせてくれました。

独立行政法人国際交流基金は日本と諸外国との文化交流を推進する各種事業を行っています。現在私は米国ニューヨーク事務所において、日本研究やグローバルな課題に対する共同研究・交流事業、市民交流への支援を行っています。業務の多くは大学やNPO等への助成ですが、助成事業では、どこにニーズがあり、意義や価値があるかを、専門家の協力も得ながら見極めること、そして主催者をサポートしながらともに事業を作り上げていく姿勢が必要となります。こうしたところに、在籍中に培った視点や行動力が活きていると感じます。

地球社会研究専攻は、グローバルな課題を学際的に扱い、経験豊富な先生方が教鞭をとり、個性豊かな学生が集まる場所だと思います。修士課程の二年間は極めて短いものですが、焦らず長期的な思いで、ご自身の道を切り開いていってもらえればと思います。

地に足のついた学際的アプローチ

岡田 彩

(同志社大学政策学部 助教・地球社会専攻修士課程 2005年3月修了)

「途上国」と呼ばれる国々で、厳しい生活を強いられている人々の生活を変えるために、日本人である自分には何ができるのか。学部時代、ワークキャンプや国 際協力NGOでの活動を通して見つけた答えは、「日本で暮らす人々にこの問題を伝え、関心を持ってアクションを起こしてもらえるよう、働きかけること」で した。実際、NGOでそうした活動に従事する中で、人々に伝える内容は自明ではなく、NGOや担当者による恣意的な情報や背景にある価値の取捨選択により 形成されていると考えるようになりました。どのような国際協力の見せ方が望ましいのか。なぜ、ある一定の見せ方が採用される傾向にあるのか。考えれば考え るほど、答えの見つからない疑問が出てきました。開発の問題でありながら、教育とも関わり、またNPO・NGO論や広報・マーケティング論とも密接な関連 を持つ問いを追求するに当たり、「問題に焦点をあてて考えていくこと」「現実的な解決を志向すること」を重視する地球社会専攻は、私とって非常に魅力的な プログラムでした。

入学当初から、このように自分の問題関心を明快に説明できたわけではありません。地球社会専攻で、教育社会学と開発社会学を学びながら、自分の問題意識を学術的に捉える術と言葉、スキルを身に付けながら、自分が何を疑問と思っているのか、何を知りたいと考えているのかを、はっきりと理解できるようになりました。その過程で、日本ではあまり展開されていない研究アプローチが海外で行われていることを知り、博士課程進学後、米国大学院への留学を決意し、結果的にはそちらでPhDを取得しました。

現実的な問題の解決を志向する研究の多くは、ともすると「学際的」という表面的な言葉で括られてしまいがちです。しかし地球社会専攻では、「地に足のついた学際的アプローチ」を体得することができました。私は「政策学」と呼ばれる分野でPhDを取得し、現在も「政策学部」に籍を置いていますが、「社会学に根ざした政策学」が専門であると自信を持って言えるのも、地球社会専攻でのトレーニングのおかげだと考えています。

現在は、大学教員として研究を継続しながら、日本の大学生に「途上国」で起こっている様々な問題を伝え、ともに解決策を考える毎日を送っています。私なりにできる「国際協力」の一つとして、非常にやりがいを感じる仕事です。

今、目の前にある社会問題をどうにか解決していきたいと考えている方。現在の政策や解決アプローチでは不十分だと考えている方。自分が知りたいと思うことが、「○○学」の何に属するのか明確に分からない方。そんな方に、地球社会専攻をお勧めします。